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思い出になんてしたくない

by あいきた


過ぎ去った日々を思い出すときに、「思い出」という言葉を使う。そんなありふれた、陳腐な言葉は嫌いだ。だけどわたしは知っている。予測できる。いつか「思い出」として記憶を呼び出す日が来ることを。そして、それを想像できてしまうことが何よりも悲しいのだ。

短いろうそくに火を灯すような、線香花火をおそるおそる持つような、そんな日々だった。終わりが来るのは始めからわかっていた。限られた時間なら、せめて1ミリも無駄にしないように、何も惜しまずに過ごした。

数え切れないほどの、説明できないほどの、大事にしたいたくさんのことを、すべて覚えていたいのに。溢れないようにすべて抱えていたいのに、それは砂のように、指の隙間からこぼれ落ちていく。何もかも鮮明に覚えていたいのに、わたしの脳はそれにイエスと答えてくれない。刻み込もうとリプレイするたびに、記憶は掠れて、偽物みたいになっていく。

そしてわたしは理解する。このリプレイを繰り返すうちに、鮮明に覚えていたいはずのことが陳腐な「思い出」になってしまうのだと。いつかリプレイもしなくなって、ふとしたときに「懐かしいな」なんて思い出す日がくるのだと。

変わらないで、変わらないから、どうかこのままで。今は強烈にそう思うのに。わたしはもう知っている。ひとの心も季節と同じように移り変わるし、ひとところには留まれない。時間が経てば、あなたも変わるし、わたしも変わる。

でも、変わらないこともある。今はそう信じるしかない。わたしにできることは何もない。ただ、変わらないで、と思うことしかできない。そして、「思い出になんてしたくない」と思ったことを覚えておくことしか。


あいきた
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