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初めて世界の終わりを願った

by あいきた

流されてしまいたかった。


このまま、感情にまかせて落ちてしまえたらどんなにいいか、と何度も思った。この一時の幸せのために、すべてを投げ出してしまえたら。

いま、この瞬間が永遠に続けばいいのに。そうじゃなければ、今すぐに世界が終わってほしい。時間は待ってくれないって誰に教わるでもなく知っているのに、そう願わざるを得なかった夜。


残念ながら、その一時の幸せのためにすべてを投げ出せるほどわたしは感情的じゃなかった。逆に言えば、あとで悲しくなることがわかっているから、自分が傷つくことを避けようと思える程度にわたしの理性は残っていた。


あんなに感情に素直になろうと思ったのに、わたしの口はそんなに素直じゃなかったし、感情的でもなかった。伝えたくても伝えられない言葉があることを知った。今までだって知ってると思っていたのに。

伝えてしまったら相手が困ることも、自分が傷つくことも想像できる。どんなに傷ついたって、いつか傷は癒える。時間が経てば。きっと忘れてしまう。

忘れてしまうんだろう、と想像できてしまうことが、余計にわたしを悲しくさせた。傷が癒えるのは良くも、悪くもある。忘れたくないのに、忘れずにいたら辛くて、忘れてしまうことも辛い。今はこんなに大切で、鮮明な記憶が、いつか忘れ去られるものなのだと、わかってしまうことが悲しいのだ。

もしかしたら、いつかふっと思い出すかもしれない。「懐かしい記憶」の一部として。


いま、こんなに大切にしたい感情なのに。いま、こんなにもわたしを揺さぶる存在なのに。いつかわたしは、「バンクーバーに住んでいたころの思い出」としてこの記憶を思い出すのだろう。


だったらせめて、良い記憶として思い出せるように、綺麗なままで置いておこうか。感情に流されてしまいたかった、と思った夜のことを。


あいきた
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