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おやすみのスタンプ

by あいきた

父がLINEを覚えた。

父は62歳になる。わたしは父の39歳くらいのときの子どもで、長女だ。小さい頃から父によくかわいがられて育った。思春期特有の反抗期みたいなものはあったけれど、わたしは父によく似ていたしそれなりに仲良くやってきた。

そんな父は去年の年末まで、もう10年以上になりそうな(わたしが小学生のときにはもう使っていた気がする)、ボタンの押しにくいガラケーを使っていた。わたしはバンクーバーにいたのでどういう経緯でそうなったのかはわからないけれど、どうやらそのガラケーをスマホに変えたらしく、突如家族のグループに父が現れたのだった。

それまでは、わたしのキャリアメールが使えないためにたまにSMSを送っていたのだけれど、LINEを覚えた父がしょっちゅうメッセージを送ってくるようになった。「初日の出を見た」だとか「今日は大雪だ」とか、写真も送ってくる。
そして毎日、わたしが寝るくらいの時間におやすみ、とスタンプを送ってくるのだった。

60歳を超えたおっさんが使うにはかわいすぎるスタンプたちである。文脈も何もない、だた毎晩送られてくるスタンプたちを見て少し呆れると同時に、ふっと笑っている自分もいた。
お父さんが、慣れないスマホを片手に、たぶん老眼で画面に顔を近づけながら、時差のあるバンクーバーにいるわたしが寝る頃を見計らって必死にスタンプを選ぶ様子。わたしの返事を見て、嬉しそうにしている様子。それは母や妹からも伝えられたし、簡単に想像できた。

24年間ずっと一緒の家にいた娘が急に海外に行ってしまって、寂しいのだろう。小さい頃から送り迎えをしてくれたり、ご飯を作ってくれたり、嫌々ながらも世話してくれた。大喧嘩したこともあるけれど、基本的にはずっと娘思いの父だった。


父は凝り性なところがあって、ハマった料理を飽きるまでしょっちゅう作り続けて、家族に嫌がられている。さいきんは唐揚げにハマっているらしい。
この凝り性なところは、わたしは父にそっくりだ。

日本に帰ったら、父の作る粕汁が食べたい。



あいきた
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