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理由がいらなくなる理由

by あいきた

冬の青空を見ると思い出す。
「今日いい天気だね」なんて、スーパーどうでもよいことを連絡していた相手のこと。

あれはたしか2月のことで、もうたぶん3年前だ。結果から言うとその人とはその年の4月ころにつきあい始め、もうお別れした。わたしはふだん、日常的に誰かと連絡を取り合う習慣がなくて、それこそ「本日の天気」などという世間話の王道のようなテーマについて言及する相手もいなかった。そういうことはツイッターに書いておけばじゅうぶんなのだった。

ふとしたきっかけで彼はわたしによく連絡をよこすようになり、わたしはそのたびに驚くほどの早さで返事をしていた。連絡を取り合う習慣はないけれど、返事は早いほうである。よくそんなに話すことがあるなぁと感心するほど連絡をとっていた。会う約束から「本日の天気」のような些細なことに至るまで、本当にたくさん。

だいたいは「おやすみ」などと言って一日は終わるのだけれど、なぜかわたしは「おはよう」だけを送る勇気がなくて、「今日すごくいい天気だね」などと付け足すことが多かった。3月ころになると「お花見行きたいね」というフレーズも使っていたように思う。そんな天気についてのどうでもよいメッセージに、彼がどう返信をくれていたのかはもう覚えていない。「いい天気だね」なんて会話の発端にもなっていないような気もするけれど、付き合っていない男の子に対して「特に大した用事もなく」連絡をとるのはわたしにとってとてもハードルの高いことだった。つまり「おはよう」だけを送る理由がなかったのだ。

付き合うと、意味もなく、理由もなく、たわいない連絡をする理由ができる。理由がないのに、理由があるのだ。そしてどうでもよい会話に付き合ってくれる。「いい天気だね」と言えば、「お昼休みにちょっと散歩した」などと言ってそのへんの写真を送ってきてくれたりする。

今まで理由が必要だったことに、理由が必要なくなる。話すことに理由がなくなる。一晩中話していてもまだ話し足りないほど、話すことが次から次へと生まれてくる。いままで日常じゃなかったことが日常になる。これが恋なんだなぁとなんとなく気づいた、ある冬の晴れた日。


あいきた
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