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昔話をしよう

by あいきた

3ヶ月前、好きになった人を空港まで見送りに来た。

たった1ヶ月しか一緒にいなかった。本当に好きだったのか、単に一緒にいる時間が長かったからそう感じたのか、はたまた留学の寂しさからそう思い込んでいたのか、今では、というより今でも、たぶんこれからもわからない。

初めて行ったのは水族館だった。よく話して、いちいち優しくて、どうでもいい話にも反応してくれた。後になって思えば、初対面だから気を遣ってくれていたのだろう。大げさなほどのリアクションは初めの頃だけで、時間が経って仲良くなればなるほど少なくなっていった。

カフェで「アイスホッケーの試合が見たい」と盛り上がり、その場でチケットを予約した。約束のアイスホッケーの日までの間に家にも遊びに行って一緒に日本食を作ったし、フェリーに乗って遠出もした。ふとした拍子に掴んだ手を、彼は「こうでしょ?」と恋人繋ぎに握り直した。

彼が1ヶ月で帰ってしまうのはわかっていたから、好きになりたくなかった。これは帰国後も続けられる関係じゃないってわかっていたから。異国の地で出会って、期限がある。その特別感が、わたしたちを、少なくとも彼を、そういう気持ちにさせているのだとわかっていた。そんなことないと思いたい感情と、どこか冷静なわたしが葛藤していた。でもわかっているなら振り払えばよかった手を、握り返したのもわたしだ。

アイスホッケーも観に行ったし、美術館や、博物館、マーケット、イルミネーションにも足を運んだ。ここにいるあいだだけ、と割り切れる人間じゃないって自分が一番わかっているのに、会うたびに繋いでしまう手を振り払うことができなかった。日本に帰ればまた会える、という気持ちとは裏腹、もしかしたらもう会わないかもしれないと思っている自分もいた。会える、というのと実際に会う、というのは天と地ほどの差がある。日本と海外ほどじゃないにしろ、わたしが日本に帰ったって彼と住んでいる場所は遠い。バンクーバーにはお互いに知り合いも友達も少ないけれど、日本では違う。


「あと3ヶ月後か。なんだ、結構すぐじゃん」

空港で、椅子に座って飴を舐めながら、彼は言った。一緒にいたのが1ヶ月。わたしが日本に帰るのが3ヶ月後。すぐ、なんだろうか。

「今度は日本でベトナム料理食べよ」と彼が笑う。空港のフードコートで、わたしたちはベトナム料理を食べたばかりだった。パクチーの後味が残る。


わたしは「帰っちゃったら寂しくなるなー」と、何度目かわからないセリフを口にした。「また会えるじゃん」という彼を、手荷物検査の入り口まで見送った。彼が見えなくなるまで立っていた。


それから3ヶ月。一度も連絡もせぬまま、わたしは再び空港にいた。

常に考えているなんてことはもうとっくになくなったけれど、ふとしたときに思い出すこともあった。もう日本に帰るけれど、たぶん、会わないんだろうな、とぼんやり考えるわたしがいる。運命ならば巡り会えるさ、という懐かしい曲の一部が頭の中で流れる。


ねぇ、もうすぐ日本に帰るよ。違う国で、1ヶ月だけ一緒に過ごした人のことも、思い出の一部として抱えて。


あいきた
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